第5回 ユーカリグローブルス Eucalyptus globulus

ユーカリラジアタとブレンドすると効果的な呼吸器系の感染症に欠かせないエッセンシャルオイル
Eucalyptus globulus
Eucalyptus globulus

■科名:フトモモ科

■抽出部位:葉

■抽出方法:水蒸気蒸留法

■特性成分:

1,8-シネオール(モノテルペン・オキサイド類)55~70%

α-ピネン(モノテルペン類)10~20%

グロブロール(セスキテルペン・アルコール類)0.2~2% など

特徴

ユーカリEucalyptus属には多くの種があります。「ユーカリ」という慣用名だけではどの種を示すのかまったくわからないので学名チェックすることが必要ですが、一般的に「ユーカリEucalyptus」という場合はユーカリグローブルスEucalyptus globulusのことを示す場合が多いようです。蒴果(果実)から抽出されたエッセンシャルオイルもありますが、葉から抽出されたものが一般的です。若葉ではなく、細長く曲がった形をしている香りのよい成熟した葉が用いられます。

 

ユーカリグローブルスは同属で1,8-シネオールを多く含むユーカリラジアタよりもパワフルな香りが特徴です。汗臭いような少しクセのある香りもします。このクセのある香りを除去して香りをよくするために加工されることがよくあります。

 

通常、香料として用いられる場合、不快臭とも呼ばれるアルデヒド類のイソバレルアルデヒドをはじめ、セスキテルペン類やセスキテルペン・アルコール類などの成分が除去されます。そうすることでユーカリらしい香りの成分である1,8-シネオールの含有率を高め、あとはモノテルペン類と少量のモノテルペン・アルコール類で占められた、雑味のない、爽やかな香りのエッセンシャルオイルに調整されます。

 

メーカーによっても異なりますが、90~95%も1,8-シネオールで占められ、ほんの少しのモノテルペン・アルコール類と微量のモノテルペン類のみで構成されている(つまりアルデヒド類やセスキテルペン類、セスキテルペン・アルコール類などは含まれない)エッセンシャルオイルもあります。

 

このようなエッセンシャルオイルは工業製品の香料として用いるのはよいのですが、アロマテラピーに使うことはできません。アロマテラピーの観点ではこのエッセンシャルオイルの主要成分である1,8-シネオールだけが重要な成分ではないからです。植物に含まれる成分の全てが必要なのです。たとえ微量であっても、香りをじゃまする成分であっても、アロマテラピーには必要不可欠な芳香成分なのです。

 

アロマテラピーでは、水蒸気蒸留で抽出されるすべての成分が重要であることから、ユーカリグローブルス以外の成分が除去されていないかどうか、特に蒸留の後半に抽出される微量成分(例えば、グロブロールやビリジフロロール、スパチュレノールなど)がきちんと抽出されているか、分析表でしっかり確認する必要があります。

 

アロマテラピーのためのユーカリグローブルスは、ミントのような樟脳のユーカリらしい香りがする1,8-シネオール(オキサイド類)は55~70%、フレッシュでウッディな香りα-ピネン(モノテルペン類)10~20%、ウッディでスパイシーな香りのアロマデンドレン(セスキテルペン類)が少量、甘さのある土の香りとも表現されるグロブロール(セスキテルペン・アルコール類)0.2~2%などが複雑に絡み合い、エッセンシャルオイル全体の香りに関与しています。

 

ユーカリグローブルスは主に下気道(気管支-肺領域)のトラブルに用いられます。これに対し、上気道(耳鼻咽喉領域)にはユーカリラジアタが用いられます。特に気管支肺の粘膜のうっ血や炎症を鎮める作用や優れた去痰作用があります。また、抗けいれん作用により、低下した呼吸器の働きを活性化します。毛細血管と肺胞のガス交換を活発にして呼吸を楽にします。

 

公害や喫煙などによる大気の汚れや、冬の冷たい空気から気管支を保護する働き、急性あるいは慢性気管支炎、肺気腫、喘息などのケアに適しています。特に高齢で呼吸器の働きが弱っている場合に起こしやすい肺炎や他の感染症の併発を予防するのに優れています。また、風邪を引いて熱が下がったにもかかわらず、なかなか治らない咳や痰に効果を発揮します。

 

風邪や気管支炎などに使う皮膚に塗るローションを作る場合は、ユーカリラジアタとブレンドすると効果的です。

 

主な作用

・ 免疫調節作用*があります。

・ 心身に活力を与えます。

・ 肺のガス交換を活発にします。

・ 気道粘膜のうっ血、うっ滞を改善します。

・ 痰を切り、咳を鎮めます。

・抗アレルギー作用があります。

・炎症を鎮めます。

*免疫を暴走させることなく炎症などを鎮める作用。

 

備考

レモンユーカリとも呼ばれるユーカリシトリオドラ(Eucalyptus citriodora / Corymbia citriodora)はユーカリグローブルスやユーカリラジアタとは全く性質の異なるユーカリです。

ユーカリシトリオドラ(Eucalyptus citriodora / Corymbia citriodora

シトロネラール(アルデヒド類)60~76%

シトロネロール(モノテルペン・アルコール類)6~12%

イソプレゴール(モノテルペン・アルコール類)2~8%

シトロネリル・アセテート(エステル類)1~3%

 

ユーカリグローブルスは他のエッセンシャルオイルとブレンドすると使いやすくなります。相性のよいエッセンシャルオイルは、ユーカリラジアタ、ラヴィンサラ、ローズマリー、ニアウリなどです。

 

column 呼吸器系の感染症にはユーカリの吸入

ユーカリラジアタやユーカリグローブルスなどユーカリ(Eucalyptus)属の呼吸器系感染症に対する治療効果について、科学的な検証に基づいて書かれた研究論文*の主なポイントを紹介します。ユーカリグローブルスとユーカリラジアタをブレンドして吸入に用いるとよいでしょう。

 

・ユーカリのエッセンシャルオイルとその主要成分である1,8-シネオールには、結核菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、真菌(カンジダを含む)など、多くの細菌やウイルスに対して抗菌・抗ウイルス作用があり、免疫調節作用、抗炎症作用、抗酸化作用、鎮痛作用、鎮痙作用があることが認められている。

 

・ユーカリのエッセンシャルオイルの蒸気吸入は、気管支炎、ぜんそく、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などにも有益である。風邪やインフルエンザ、副鼻腔炎などの呼吸器系の感染症に民間療法として安全に使われてきた歴史があり、安全性と広い抗菌スペクトルにより、医薬品の代替品にもなりうる。

 

・蒸気吸入の方法としては、マグカップにお湯を入れ、ユーカリを2~4滴入れ、数分間吸入を行うのがよい。

 

Reference:
* Angela E. Sadlon, ND, and Davis W. Lamson, MS, ND (2010). Immune-Modifying and Antimicrobial Effects of Eucalyptus Oil and Simple Inhalation Devices. Alternative Medicine Review, 15(1), 33-47.

 

column 自らを燃やして命をつなぐユーカリ

 

ユーカリは主にオーストラリアに分布する大木で、葉にエッセンシャルオイルの成分が多く含まれています。エッセンシャルオイルは揮発性があるため、空気中に蒸散し、樹林帯が青っぽく見えるほどです。>

 

グローブルス種に限ったことではありませんが、ユーカリは面白い植物で、山火事によって繁殖するという性質があります。引火点の低いエッセンシャルオイルを多く含んでいますから、山火事になりやすい条件はそろっています。

 

樹木自体は焼け焦げて死んでしまいますが、高温にさらされた種を含む実がはじけて、土壌に蒔かれるという仕組みです。

 

成長が早いのでたちまち大きくなり、スムーズな世代交代を行って森の命をつないでいます。山火事がないと生き延びることのできない変わった植物です。先住民のアボリジニは傷を癒すのにこの葉を利用してきたと伝えられています。