■科名:シソ科
■抽出部位:花が咲いている地上部
■抽出方法:水蒸気蒸留法
■特性成分
メントール(モノテルペン・アルコール類)30~40%
メントン(ケトン類)20~30%
メンチル・アセテート(エステル類)5~12% など
シソ科Mentha(ハッカ)属の植物は、優れた効能のある薬草として、古くから世界のあらゆる文化圏で親しまれてきました。
古代ローマの学者プリニウスは著書『博物誌』の中でその薬効について次のように記しています。「ハッカの香りは頭をスッキリさせ、その味覚は食欲を刺激する……。頭痛にはハッカで作ったローションをこめかみに塗り、胃の痛みには乾かして粉にしたものをひとつまみ口にすれば痛みが鎮まる。また、それを飲み物に混ぜて飲めば虫下しにもなる」。
Mentha属には約20の種がありますが、交雑によって多くの交雑種が生まれるため、分類は容易ではありません。その中で優れた効能と幅広い用途から、アロマテラピーに欠くことのできないエッセンシャルオイルの一つとして知られているのがペパーミントMentha × piperitaです。
ペパーミントは主に2つの成分からなります。モノテルペン・アルコール類のメントール(30〜40%)とケトン類のメントン(20-30%)です。この2つの成分がエッセンシャルオイルの約60%を占めます。メントールがメントンよりも多く含まれているのが特徴です。
他の成分としては、メントールとメントンの異性体(イソメントール、ネオメントール、イソメントン、ネオメントン)が約12%、エステル類の酢酸メンチル(5~12%)、ケトン類のピペリトンとプルゴン(1%)、オキサイド類の1,8シネオール(4~6%)とメントフラン(2〜4%)、モノテルペン類(リモネン、サビネン、カンフェン、ピネンなど)とセスキテルペン類(β-カリオフィレン、ゲルマクレンD、β-ボルボネンなど)がわずかに含まれています。
主成分のメントールは強いミントの香りがします。新鮮で清涼な香りのなかにわずかな甘さを感じさせます。皮膚に塗布したり、香りをかぐと皮膚や鼻腔、口腔粘膜に冷涼感をもたらし、爽やかな感覚を与えます。皮膚に冷涼感をもたらす冷涼受容体とも言われるTRPM8が活活性化されるからですが、同時に鎮痛、麻酔効果もあることがわかっています1)。また、冷涼受容体TRPM8を活性化するのはペパーミントに含まれる1,8-シネオールにもあります2)。
メントンも清涼感のある香りですが、メントールよりも穏やかです。皮膚塗布した場合もメントールよりも刺激が少なくて穏やかです。
酢酸メンチルはメントールに似た爽やかな香りがします。
このように、多くの成分が醸し出す香りは、心身をリフレッシュさせてくれます。身体の組織を刺激し、生理機能を活発にする作用があります。長期に及ぶ抗生物質による治療や感染症などの病気で身体の機能が低下している人の回復を助けます。
また、特筆すべきは、頭痛を鎮める効果です。日本人の場合、緊張型頭痛では人口の約2割、片頭痛は約1割にも上り、3~4人に1人が頭痛持ちということになります。
緊張型頭痛にせよ片頭痛にせよ、ペパーミントを額からこめかみにかけて塗ると、ひんやりとした清涼感が痛みをまぎらわせてくれます。ただし、つけ過ぎるとヒリヒリとした強い刺激となってしまうので、使用量は1~2滴にとどめます。
緊張型頭痛の場合は、痛み止めとして一般的によく用いられるアセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)の効果と遜色なく、有害現象もないことが証明されています3)。
そして、片頭痛の場合には、1.5%濃度のペパーミントのエッセンシャルオイルを経鼻投与した場合に、頭痛の強さと頻度が大幅に減少し、約40%の患者の痛みがリドカイン(局所麻酔薬)と同様に緩和された。ペパーミントの経鼻投与は片頭痛の緩和に有効であると結論づけられる4)ことが、二重盲検試験によって明らかにされています。
確かに、ペパーミントの爽やかな香りは、頭痛のときには特に心地よく感じますし、額や首筋に塗ると、清涼感が気持ちよく、凝りや痛みが楽になります。頭痛とまではいかなくても、花粉の飛散がもたらす頭重感にもペパーミントの爽やかな清涼感と香りは心地よいものです。
万一、ペパーミントのエッセンシャルオイルが目に付いてしまった場合には、台所にある植物油をティッシュなどにたっぷりつけて拭うとすぐに刺激が治まります。くれぐれも水で洗い流そうとしないようにしてください。
ペパーミントには、強い刺激を伴う清涼感があるので、目や粘膜、皮膚の弱い部分に付くと、強い清涼感を通り越して痛みとして感じこともあるので注意が必要です。皮膚に局所的に塗る場合は別として、必ず他のエッセンシャルオイルとブレンドして用います。
気分の悪いときや疲れたときだけに1滴飲むというような、少量かつ継続性のない使い方は例外として、継続的なケアに用いる場合は、配合率を大人は10%以下、子供は5%以下にします。
子供に用いる場合は1滴以内にし、他のエッセンシャルオイルと必ずブレンドします。ただし、5歳未満の幼児には使用しないでください。
ディフューザー(芳香拡散器)を用いて芳香浴を行う場合も、目や粘膜を刺激するので他のエッセンシャルオイルとブレンドして用います。
・ 心身に活力を与え、リフレッシュさせます。
・ 清涼感、冷感を与えます。
・ 肝臓の働きをよくします。
・ 胃腸の働きを活発にして消化を助けます。
・ 吐き気を抑えます。
・ 免疫調節作用*があります。
・ 抗アレルギー作用があります。
・ 鎮痛作用があります。
*免疫を暴走させることなく炎症などを鎮める作用。
Reference :
1) Cheng H., & An X. (2022) Cold stimuli, hot topic: An updated review on the biological activity of menthol in relation to inflammation. Front. Immunol.,doi: 10.3389/fimmu.2022.1023746.
2) H-J Behrendt, T Germann, C Gillen, H Hatt, R Jostock (2004).Characterization of the mouse cold-menthol receptor TRPM8 and vanilloid receptor type-1 VR1 using a fluorometric imaging plate reader (FLIPR) assay. Br J Pharmacol. 141(4): 737–745.
3) Göbel H, Fresenius J, Heinze A, Dworschak M, Soyka D., (1996)Effektivität von Oleum menthae piperitae und von Paracetamol in der Therapie des Kopfschmerzes vom Spannungstyp, Nervenarzt. 67(8):672-681.
4) Rafieian-kopaei M., Hasanpour-dehkordi A., Lorigooini Z., Deris F., Solati K., Mahdiyeh, F. (2019) Comparing the Effect of Intranasal Lidocaine 4% with Peppermint Essential Oil Drop 1.5% on Migraine Attacks: A Double-Blind Clinical Trial. Int J Prev Med. 10: 121.
「地球沸騰化」とも言われる猛暑下では疲労もひとしお。疲労困憊したときにはレモン1滴とペパーミント1滴を角砂糖に垂らしてキャンディ代わりに舐めます(1日1~2回程度まで)。レモンとペパーミントの組み合わせは疲労回復のブレンドとしてよく知られています鼻腔に抜けるミントの清涼感とレモンのフルーティーな風味が心身をシャキッとさせてくれます。
ペパーミントを飲用したときの、ヒトでの認知・気分効果を評価した臨床研究があります。健康な21~35歳の男女24名に、100マイクロリットル(約2滴)のペパーミントのエッセンシャルオイル、50マイクロリットル(約1滴)のペパーミントのエッセンシャルオイル、プラセボとして植物油だけのカプセルを無作為に投与しました。尚、カプセルを飲み込む際には水の代わりに、エッセンシャルオイルの分散と吸収を助けるために、脂肪分の高い全乳200ミリリットルを用いたということです。
投与1時間後と3時間後に認知的に負荷の高い課題を与える試験を行った結果、認知課題のパフォーマンスを上げて精神疲労を抑制することがわかりました。
Reference:
Kennedy D., Okello E., Chazot P., Howes M-J., Ohiomokhare S., Jackson P., Haskell-Ramsay H., Khan J., Forster J., & Wightman E. (2018). Volatile Terpenes and Brain Function: Investigation of the Cognitive and Mood Effects of Mentha × Piperita L. Essential Oil with In Vitro Properties Relevant to Central Nervous System Function. Nutrients. 10(8):1029