アロマテラピーとは


このサイトの監修者であり、内容の多くをその教えに負っている Philippe Mailhebiau フィリップ・メユビオは、彼の主著 『La Nouvelle Aromatherapie』 の 「まえがき」 で次のように述べています。

 

今日、アロマテラピーとはどのように考えられているのだろうか?当然のごとく、「身体に優しい医療」とも呼ばれる自然医療の一つに分類され、手頃で無害なものだと考えられているのではないだろうか。ところが、実際のアロマテラピーは「身体に優しい」どころか、厳密な意味で「自然」と冠するには憚れるようなケースもあるのだ。

 

まず、市場に出回っているエッセンシャルオイルの多くは、合成されたり不純物と混ぜられていたりして、とても「自然」なものとは言えない。正しい植物学名や詳しい成分の表示もない、いい加減な製品の中には、品質が劣悪で使用すれば危険なものまで含まれている。

 

私は薬剤師、植物学者、生物学者、化学者といった研究者達と協力して、それぞれに固有な生物学的特性を持った何千という種類とロットのエッセンシャルオイルを分析、研究してきた。その結果、エッセンシャルオイルの品質はまちまちで、天然100%でないものも数多くあり、そうしたことがケアの効果を不安定にしていることがわかった。「ラボラトワール (研究所)」と名乗る多くの業者が実際は、合成品や内容が化学的に特定されていない安価なエッセンシャルオイルを、卸売り業者から仕入れて転売しているに過ぎないのだ。こうした劣悪な品質のエッセンシャルオイルが、香水や石けんの原料となるならまだしも、残念なことに薬局や専門店で販売されているのをしばしば見かける。

 

消費者は、内容とは必ずしも一致しない謳い文句の商品を買わされてしまうだけでなく、最悪な場合、品質の悪いエッセンシャルオイルを摂取し続けることによって、まさに医原性の疾患を引き起こすことにもなりかねないのだ。

 

品質の良いエッセンシャルオイルを正しく使えば、安全で効果的なアロマテラピーによって、私たちの心身に起こるさまざまな不快感を軽減することができます。ですから、アロマテラピーを行なう上で最も重要なことは、品質の良いエッセンシャルオイルを知ることであり、エッセンシャルオイルの正しい使用法を知ることなのです。

エッセンシャルオイルの品質


アロマテラピーとは、エッセンシャルオイルを吸入(芳香浴)、皮膚塗布、飲用などによって体内に取り込み、心と体の不快感を軽減する技術、と定義することができます 。ですから、アロマテラピーを学ぶとは、エッセンシャルオイルの使い方を学ぶということですが、なおざりにしているのがエッセンシャルオイルの品質についての知識です。

 

「芳香浴をしていたらなんとなく気分が悪くなった」 「肌に塗ったら赤くなった」 など、アロマテラピーのトラブルは、使用したエッセンシャルオイルの品質か、あるいはエッセンシャルオイルの誤った使い方に起因するものがほとんどです 。

 

安全で効果的なアロマテラピーを行なうには、エッセンシャルオイルの正しい使い方を学ぶことはもちろんのこと、アロマテラピーに適した、安全面でも、治療効果の面でも優れた 「品質のいい」 エッセンシャルオイルとは何かを知る必要があるのです。

 

では、品質のいいエッセンシャルオイルとはどんなもので、何を目安にすれば、品質のいいエッセンシャルオイルを手に入れることができるのでしょうか。それは、最低でも次に挙げる三つの条件を満たしたものになります。

 

① 100%天然で純粋ある

② 水蒸気蒸留法によって完全蒸留されている(ただし、柑橘類の果皮は圧搾法)

③ 品質評価がGC/MS(ガスマス)分析によって行なわれデータがユーザーに公開されている

 

では、これら三つの条件の内容を説明します。

 

① 100%天然で純粋であること

アロマテラピーで使用するエッセンシャルオイルは、100%天然で純粋でなければなりません。

市場にはさまざまな加工・精製が施された不純なエッセンシャルオイルが流通しています。例えば、合成香料で薄められいるものや 、高価なエッセンシャルオイルを安く販売するために、香りの類似した安価なエッセンシャルオイルを掛け合わせたもの 、また、フレグランス* としての香気のために、特定の成分が加えられたり、逆に抜かれたりされているものもあります。こうした加工・精製は、フレグランスの素材としてのエッセンシャルオイルでは普通に行なわれていることです。しかし、合成香料などの添加物は、中毒やアレルギー反応の原因になるばかりでなく、加工・精製によって成分バランスが崩れてしまったエッセンシャルオイルは、アロマテラピーで求められる薬理作用が失われてしまっています 。

 

例えば、市販されている真正ラベンダー Lavandula angustifolia のエッセンシャルオイル(12メーカー13ロット)をガGC/MS(ガスマス)分析を用いて分析し、品質の比較を行なった調査では、安価なラバンジンの混和や溶媒によって希釈されているメーカーのものがあったと報告されています。そして、あるメーカーものからは、希釈剤として用いられたとおぼしき、皮膚毒性や発がん性が指摘されている多価アルコールの一種であるジプロピレングリコールが検出されたと記されています(森真啓他 『市販精油の品質評価』 藥學雜誌 122(3), pp.253-261, 2002)。

 

また、ローズにゼラニウム、真正ラベンダーにラバンジンが混ぜられて、通常より価格の安い「ローズ」、「ラベンダー」が販売されていたりします。

 

*「フレグランスとは、香水、化粧品、せっけん、シャンプー、リンスなどの製品に使われる香りのことである」(中村祥二 『香りの世界をさぐる』 朝日新聞社 p.142, 1989)

 

② 水蒸気蒸留法によって完全蒸留されていること

アロマテラピーで使用するエッセンシャルオイルは、水蒸気蒸留法によって抽出されたものでなければなりません。レモンなど柑橘類は圧搾法 によって抽出されたものを使用します。

香料としてのエッセンシャルオイルを抽出する方法として、石油から作られたエーテル、ヘキサン、ベンゼン、エタノールといった揮発性有機溶剤を用いる方法があります。昔ながらの水蒸気蒸留法に比べ、手間やコストもかからず、また低温で抽出できるため、ローズ、ネロリ、ジャスミン といった収油率も低く、熱に弱い芳香成分を含む花のエッセンシャルオイルの抽出によく用いられます。しかし、抽出に用いられる溶剤がエッセンシャルオイルに残留する危険があるため、アロマテラピーでの使用は避けなければなりません。

 

― エッセンシャルオイルの品質を左右する完全蒸留のための技術 ―

エッセンシャルオイルの品質を左右する最も重要なファクターは、蒸留の方法と技術になります。よく、品質のいいエッセンシャルオイルとは、オーガニックのエッセンシャルオイルのことだと勘違いされることがあります。しかし、オーガニックとはあくまで原料植物の栽培方法のことあり、オーガニックだからエッセンシャルオイルが品質がいいということにはなりません。

アロマテラピーにとって、品質のいいエッセンシャルオイルとは、治療効果に優れた成分バランスのいいエッセンシャルオイルのことです。成分バランスがいいとは、分子量が軽く揮発性の高い分子から、分子量が重く揮発性の低い分子まで、満遍なく蒸留された完全蒸留のエッセンシャルオイルのことです。

 

完全蒸留は、温度、圧力の微調整をしながらゆっくりと時間をかけて行なわれます。フレグランスとしてエッセンシャルオイルでは、香りの 「心地よさ」 だけが求められるため、揮発性の高い成分だけを抽出する短時間蒸留が行なわれます。そのため、抽出に時間のかかる重い微量成分(アロマテラピーにとって欠かすことのできない、治療作用に優れたものが多くあります)が含有しない、中身のないエッセンシャルオイルになってしまいます。

 

例えば、イランイランの場合、フレグランスとしては、エクストラと呼ばれる短時間蒸留のエッセンシャルオイルが好まれますが、アロマテラピーでは、あくまで完全蒸留のイランイランを用います。イランイランは、スキンケアによく使われるエッセンシャルオイルですが、エクストラには、スキンケアに欠かせないゲルマクレン-D をはじめとする有効成分が、短時間蒸留のため十分に抽出されていないからです。また、クラリセージのスクラレオールなどは蒸留の最後に抽出される成分で、不完全な蒸留では抽出することができません。

 

③ 品質評価がGC/MS(ガスマス)分析によって行なわれデータがユーザーに公開されている

例えば、店頭で手に取り、購入しようとしているエッセンシャルオイルが、100%天然であり、なおかつ水蒸気蒸留法によって完全蒸留されたものであるかは、テスターの香りを嗅いだだけでは、いくら鼻のいい人であってもなかなか判断できません。そのため、アロマテラピーのためのエッセンシャルオイルは、科学的な方法によって、客観的に品質評価がなされているものでなければなりません。

現在、GC/MS(ガスマス)と一般に呼ばれている装置を用いた分析が、エッセンシャルオイルの品質評価を行なう上で、最も正確な検査方法と言われています。→ 詳細