手術後に感じる痛みや吐き気・嘔吐は、患者にとって大きなストレスとなり、回復の妨げにもなります。特に、下肢骨折のような侵襲性の高い手術では、術後の強い痛みに加え、全身麻酔によって悪心(吐き気)や嘔吐が頻繁に起こり、術後の生活の質(QOL)に大きく影響します。
こうした術後症状を和らげるための補完的なケアとして、近年、アロマセラピーが注目を集めています。
今回は、レモン精油の吸入による術後症状への効果を検証した臨床研究をご紹介します。この研究は、下肢骨折手術を受けた90名の患者を対象に行われたランダム化比較試験(RCT)です。レモン精油によるアロマセラピーを、術前から術後16時間にわたって実施し、その効果を評価しました。
参加者は無作為に2つのグループに分けられました。介入群には以下の方法でレモン精油が使用されました。
• 術前:マスクにレモン精油5滴を垂らして吸入
• 術中:精油を染み込ませたコットンを、鼻から約20cm離れた術衣に装着
• 術後:酸素マスクの端にコットンを挿入し、2時間ごとに交換
対照群には、同様の方法で無臭のアーモンドオイルを使用しました。
その結果、介入群では痛みの強さが有意に低下し、特に術後16時間後の痛みスコアにおいて明確な差が見られました。また、吐き気や嘔吐、むかつきの重症度・頻度も明らかに軽減し、術後16時間の時点では制吐剤を必要とする患者は一人もいませんでした。なお、副作用や予期しない有害事象は報告されていません。
さらに他の研究でも、レモンとペパーミントのブレンド精油や、ジンジャー(ショウガ)精油の使用が、術後の吐き気や嘔吐の軽減に有効であると報告されています。
Reference:
Rambod, M., Pasyar, N., Karimian, Z., & Farbood, A. (2023). The effect of lemon inhalation aromatherapy on pain, nausea, as well as vomiting and neurovascular assessment in patients for lower extremity fracture surgery: A randomized trial. BMC Complementary Medicine and Therapies, 23(1),208.